片山式ブラッシングを教えてください
「片山式ブラッシングに挑戦したいのだが、どのような歯ブラシを選べばよいのか教えて欲しい」という問い合わせがありました.
しかし、残念ながら片山式ブラッシングの具体的な方法は、メールで簡単にお伝えすることはできません.
なぜなら、片山先生のブラッシングはその方の歯肉の状態や口の状態によって歯ブラシの種類も磨き方もすべて変えていくからです.
歯肉の状態によっては、1週間で歯ブラシの種類も磨き方も変えることがあるほどなので、この歯ブラシでこんな具合にやります、というように簡単にお伝えすることができないわけです.
片山セミナーでのブラッシング法についての質問
片山セミナーでは、4日間の講義の最後に1時間ほど質問の時間が設けられていました.
ビールも配られ、懇親会のような形式で片山先生に質問するというコーナーでした.
ビール片手にというと、ずい分なごやかな空気の中で行われていたように聞こえますが、片山先生の威厳に満ちた態度の前で、自由に発言できるという雰囲気はまったくありませんでした.
あるとき、若い先生が質問しました.
「片山先生のブラッシングのやり方について教えてください」
セミナー開始当初は片山式ブラッシングの具体的な方法に関する講義はまったくありませんでした.
どのような歯ブラシを使い、どのように磨くのかまったく教えてもらえなかったのです.
歯肉の炎症が激しい時は絵筆ほどの軟らかいものから始めて、徐々に硬くしていくという情報でさえ、講義の端々をつなぎ合わせてやっと得られたという状態でした.
ブラッシング方法に関しては、「やはりバス法なのかな」、「スクラッピング法らしい」などと受講生同士でひそひそ話し合っていましたが、良く分かっていなかったというのが正直なところでした.
しかし、何回か講義を聞いていると、片山法はバス法やスクラッピング法などのブラッシング法とは一線を画するものであることが分かってきます.
片山式ブラッシング法はいろいろなものが組み合わさっていて、この歯ブラシでこう磨くと一口で言えるようなものではないということに徐々に気がつくようになるわけです.
とは言っても、詳細はまったく曖昧模糊としたものだったわけで、「片山先生のブラッシングの具体的なやり方を教えて欲しい」とセミナー初参加の受講生が聞きたくなるのは無理からぬところがありました.
あんた、4日間何を聞いとったん!?
その質問を憮然とした表情で聞いていた片山先生は
「あんた、4日間何を聞いとったん」
と強い語調で仰いました.
遠目に見ても、かなり立腹されていることが伺い知れます.
そして、しばらく沈黙が続いた後、次のように言葉を続けました.
「あのねぇ、その質問するなら、何日目のどのスライドの何番の歯の歯肉にはどのような歯ブラシを使って、どのようにブラッシングをしたのかと聞かなければ、いかんでしょう」
「そんな訳の分らん質問には答えらりゃせん、はい次」
とその質問を打ち切ってしまいました.
当の受講生は腑に落ちない様子で仕方なく着席したのですが、私はこの歯科医によくぞ聞いてくれたと心の中で拍手を送っていました.
片山先生のブラッシングは歯肉や歯の状態によって歯ブラシもブラッシング法も変えていく、バス法やスクラッピング法などのように決まり切った方法があるわけではないということがはっきり分かったからです.
自分の頭で考え、悩み、努力する
その後、片山式ブラッシング用のKシリーズ歯ブラシが販売されるようになり、セミナーでも具体的なブラッシング方法の講義も行われるようになりました.
そして、「歯槽膿漏-抜かずに治す」が出版され、その基本形はだれでも簡単に知ることができるようになりました.
しかし、基本形が理解できたにしても、片山式ブラッシングは一人ひとり、また歯肉の治癒過程によっても異なるので、メールなどのお問い合わせにお答えすることはできないわけです.
たとえ来院されて「片山式ブラッシングを教えてください」と言われてもその方のブラッシング法が簡単に見つかるわけでもありません.
まずは「歯槽膿漏-抜かずに治す」の1部~3部をじっくり読んでブラッシング法の基本形をマスターして、自分なりに努力してからでないと、片山式ブラッシングを理解するのは難しいかもしれません.
一人で頑張ってうまくいかないところがあったときに初めて、専門の衛生士の指導を仰ぎ自分のブラッシング方法を見つけるのが片山式ブラッシング法をマスターする近道です.
片山先生は自分で考えることも、悩むことも、努力することもしないで、良い方法はないかという態度の人にはとても厳しい先生でした.
しかし、頑張っても頑張っても上手くいかないと、とことん悩み抜いた人の質問に関してはとても優しくそして丁寧に答えてくれました.
「何かいい方法ありませんか?」と人に頼っても、そこには何も見つかりません.
何をするにつけても、自分の頭で考え、実践し、悩み抜くことでしか答えは見つからないというのが、ブラッシングを通して片山先生が私に伝えてくださった教えです.