入れ歯が合わない
他の歯科医院で入れてもらった入れ歯が合わないので、新しく作ってほしいという方が来院しました。
5,6年前に一度だけ来院したことのある患者さんです。
以前来院したときは、全部で17、8本の歯があったはずなのですが、現在では右下の犬歯が1本だけしか残っていません。
しかも、その近くに3本ほどインプラントが乱雑に埋入されています。
上の歯はすべて失って、総入れ歯になっていました。
次々と歯を抜かれた
5,6年の間に歯がほとんど無くなってしまったいきさつを聞いてみましたが、あまりはっきりした答えは返ってきませんでした。
上の歯は次々と抜かれて総入れ歯になってしまった。
下の歯は右側の歯を抜いてインプラントを入れた。
残っている歯はブリッジが入っていたが、それもダメだから抜くと言われて下の入れ歯を入れた。
その入れ歯が合わないと歯科医に訴えると、入れ歯は具合が悪いからインプラントにしましょう、としつこく勧誘された。
インプラントがあまりにも高額なので驚いてしまって、歯科医を替えようと思った。
かいつまんで言うとそのような話でした。
転院の理由
インプラントの勧誘がしつこいことと、その値段のが法外だったことを何度も繰り返しておっしゃっていたので、それが転院の理由だったのだろうと思います。
歯や口の健康を考えてというより、モノを買いに行ったら、示された値段があまりにも高かったので店を替えた、という感覚で来院されたわけです。
モノを買う感覚で歯医者を替えても、口の中は具合よくならない可能性が高いでしょう。
歯科治療はお金を出せばよいものが手に入るというわけでもありませんし、ましてや安ければ良いということは決してありません。
なぜ、抜歯になってしまったのか、これからの自分にとってどのような歯科治療を受けるのが適切なのか、自分自身の問題として真剣に考えなければ、義歯にしても、インプラントにしても満足する補綴物を手に入れることはできません。
要件を満たしていない義歯
この入れ歯は装着して一か月も経過してしないということでした。
残っている唯一の犬歯とインプラントに入れ歯の針金(クラスプと言います)がかかっていますが、これがクラスプの要件をまったく満たしていません。
入れ歯の外形も合っておらず、粘膜の適合もいい加減で、これでは具合が悪いのは当然です。
健康保険で入れ歯を入れると、半年は新しい入れ歯を作ることができない決まりになっていますし、私どもでは保険の義歯は取り扱っていないので、健康保険の範囲内で、できる限りの修理調整をして使ってもらうことにしました。
欠損歯列の勉強をしましょう
現代の若い歯科医たちは、欠損歯列の治療はインプラントを入れることばかりを考えていて、義歯の勉強をしていない人が多いような気がします。
(老歯科医の愚痴ですみません)
具合の悪い義歯をつくって、インプラントに誘導しているのではないかと疑ってしまうような補綴(ほてつ)治療を行っているのです。
インプラントは欠損歯列をきちんと勉強しなければ、満足する結果を得られません。
『欠損があればインプラント』という態度ではなく、咬合支持や受圧加圧など欠損歯列に対する勉強をして、きちんとした義歯を作れるようになってからインプラントの勉強をしてください。
そうでなければ、インプラントがどんなにうまく植立できても、口にとっては害を与える存在になってしまいます。
欠損歯列の勉強をするには、まず宮地建夫先生の『欠損歯列・欠損補綴=レベル・パターン・スピード』に書かれている内容を理解するのが良いと思います。